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IGPI上海の眼:コロナショックを乗り越えるために

(IGPI上海高級経理 小林輝亮)

危機は長期化する

多くの医療従事者たちの献身的な努力によって、中国国内における新型肺炎の流行は沈静化しつつある。新規の感染者数は抑え込まれ、市民生活も落ち着きを取り戻してきた。中国に限って言えば、コロナウイルスの封じ込めに成功しつつあるといえよう。企業の生産活動やサプライチェーンも、徐々に正常化に向かっており、中国経済全体もいったんはV字回復に向かうものと思われる。 では、コロナショックは過ぎ去ったのだろうか。私たちは、下記の理由からコロナショックは長期化すると考えている。

1点目は地域的な広がりだ。当初、新型肺炎の蔓延は、中国やアジアの一部地域に限られていた。世界的にみればごく限られた地域のショックであり、制御可能なリスクである、との見方が多かったように思う。その後、中国での感染拡大に歯止めはかかったものの、欧米などで感染が爆発的に拡大し、世界はパンデミックの様相を呈している。直近では、世界各地で人の外出や移動が制限され、生産活動の停止やサプライチェーンの寸断が世界規模で広がっている状況だ。中国はグローバルサプライチェーンに深く組み込まれている。中国での感染拡大を封じ込めても、海外からの人やモノの流れが滞れば、危機から無縁でいることはできない。

2点目は、危機の形態の変容だ。当初は、感染地域での生産停止、サプライチェーンの寸断など、いわゆる「供給サイド」のショックが中心だった。供給サイドのショックは、生産や物流が復旧すれば終息する。実際に中国でも、企業の生産活動が再開し、経済の正常化が進んでいる。ただ、実際には危機は「供給サイド」から「需要サイド」に飛び火している。人の外出や移動が制限されたことで、世界各地でまずは外食やレジャーなど、第3次産業の需要が落ち込んだ。続いて、失業の増加や所得の減少、先行きへの不安などから、耐久消費財の需要が落ち込んでいる。まさに、世界規模で「需要が蒸発」している状況だ。製品の仕向け地である欧米やアジアで需要が消滅すれば、世界の工場である中国への影響は避けられない。

3点目は危機の質的広がりである。危機の形態が供給サイドから需要サイドに変容したことで、危機の長期化は避けられない。リーマン・ショックと異なり、現時点では世界の金融システムは比較的健全な状況にある。ただ、危機が長期化・深刻化し、企業倒産が相次ぐような事態が発生すれば、健全だったはずの金融システムにも影響が出てくる。さらに深刻なのはリスクマネーの供給だ。世界的な金融緩和を背景に、2018年頃までは潤沢なリスクマネーが供給され、世界でも中国でも、「スタートアップ・バブル」といえる状況が続いていた。しかし、2019年に入ると状況が一変し、リスクマネーの収縮で資金繰りに苦しむスタートアップも出始めていた。コロナショックは、スタートアップの苦境をさらに深刻化する可能性がある。危機の質的な広がりを前提に、対処をしていくことが肝要だ。

危機を乗り越える処方箋

IGPIは、2003年に日本政府が設立した産業再生機構(IRCJ)の出身者が2007年に立ち上げた会社だ。産業再生機構は、「失われた20年」の真っただ中にあった日本政府が、産業と金融の再生のために立ち上げた組織で、4年の存続期間の中で、40社を超える企業の再生を成し遂げた。IGPIの設立以降も、リーマン・ショック、日本航空の再生、東日本大震災や原発事故など、様々な経済危機の中で、多くの企業の再生や構造転換に携わり、多くの企業の栄枯盛衰を見てきた。

そんな我々の経験を踏まえた今回の危機へのメッセージは2点だ。

1つ目は、「長期戦への備え」である。危機は当初の予想を超え、世界的に、幅広い産業に、深い影響を及ぼし始めている。中国では確かに、一時的なショックからの回復が予想されるものの、グローバルサプライチェーンが寸断され、世界的な需要減退が続いていることを鑑みると、短期での危機終息は見込めない。「供給ショック」→「需要ショック」→「金融システムショック」と、事態がエスカレートしていく可能性も出始めている。まずは、手元の現預金を厚く保ち、コスト効率を高めて体質を改善し、危機を生き残ることが肝要だ。また、これは自社だけの問題ではない。自社のサプライチェーン上にある取引先、提携先、投資先など、サプライチェーンやエコシステム全体にも目配りをすることが求められる。

2点目は、構造転換の取り組みである。過去の危機においても、多くの企業が身をかがめ、危機をやり過ごすことに終始した一方、一部の企業は危機の中で構造転換を成し遂げた。トンネルをくぐり抜けたその先が、元の世界と同じとは限らない。今回の危機の中でも、デジタルトランスフォーメーション、サプライチェーンの組み替えなど、不可逆的な変化が進行している。したがって、ただ身をかがめて危機をやり過ごすのではなく、危機をチャンスに変え、「攻め」に転じる姿勢も大切だ。既存の事業ポートフォリオや戦い方を徹底的に見直すとともに、自社の差別化のポイントを明確化し、他社に先駆けて攻めの投資を行う。そんな「攻め」と「守り」の組み合わせが求められる。

IGPIは、これまで中国や日本、さらにはアジアの様々な地域において、企業・事業の再生や構造転換、成長戦略策定・実行などを、ハンズオン形式でサポートしてきた。IGPIがサポートできる領域があれば、ぜひお気軽にご相談をいただきたい。 (小林輝亮)

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