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IGPI上海の眼:企業・事業再生の要諦

(IGPI上海高級経理 小林輝亮)

コロナショックの影響

中国国内では新型肺炎の影響が沈静化し、生産活動の正常化が進みつつある。しかし、感染は世界全土に拡大し、危機の深刻化、長期化のリスクが高まってきた。グローバルでのサプライチェーンの寸断や需要の消失は、製造業大国である中国にとって決して対岸の火事ではない。我々は、中国企業も危機の長期化を念頭に経営を行う必要があると考えている。

実は、中国企業を取り巻く環境は、コロナショックの前から徐々に悪化し始めていた。米国との貿易戦争の拡大、ベンチャーバブルの収縮、自動車販売台数の減少など、2019年頃からは徐々に事業環境悪化のサインが出始めていた。それに追い打ちをかけたのが、今回のコロナショックである。したがって、我々は中国においても、今後は事業構造改革や、再編、再生が必要な企業が増加するのではないかと予測している。

企業・事業再生の3つの要諦

IGPIは、2003年に日本政府が設立した産業再生機構(IRCJ)の出身者が2007年に立ち上げた会社だ。産業再生機構は、「失われた20年」の真っただ中、日本政府が、産業と金融の再生を目的に立ち上げた組織であり、4年の存続期間の中で、40社を超える企業の再生を成し遂げた。IGPIの設立以降も、リーマン・ショック、日本航空の再生、東日本大震災や原発事故など、様々な経済危機の中で、多くの企業の再生や構造転換を支援し、多くの企業の栄枯盛衰を見てきた。

そんな我々の経験から、企業・事業再生に不可欠な3つの点を述べさせていただきたい。

1つ目は、「資金繰り」である。企業は赤字だから倒産するのでは限らない。資金繰りが続かなくなり、支払が滞って倒産するのである。極端な話、資金繰りが行き詰まれば、黒字でも倒産する。逆に、どれだけ赤字を計上していても、資金繰りの目途が付く限り、企業は倒産することはない。まさに、「キャッシュ・イズ・キング」である。

手元資金に余裕があれば、様々な施策を検討する余裕が生まれるし、リストラなど、出血を伴う手立ても講じやすい。逆に、資金繰りに窮しているときは、時間を稼ぐために貴重な資産を安値で売却せざるを得ないなど、苦しい闘いを余儀なくされることになる。どんな企業再生も構造改革も、資金繰りが確保できてこそ成り立つのである。また、経済危機や金融危機の際には、金融機関や投資家からの資金調達が難しくなる。危機の時こそ、資金繰りに念頭を置いた事業運営が重要である。

2点目は「徹底的な資源投入」である。企業再生・事業再生の失敗事例で多く見られるのは、事態を軽視し、小規模な施策の実行や戦力の逐次投入に終始した挙句、傷口を広げてしまうケースである。その結果時間を浪費し、より大きなダメージを受けてしまうケースも多い。ポイントは、事態を過小評価せず、必要なときは果断に、かつ十分な施策を講じることである。企業再生・事業再生といった難局だからこそ、経営資源や人材を集中投下することが必要だ。次の世代を担うミドルマネージャー層から、修羅場で闘える人材を登用するのも効果的である。

3点目は「コスト削減重視の計画策定」である。危機の直面している企業ほど、新規事業の創出や新規顧客の開拓など、売上面での施策に活路を求める傾向が強い。しかし、そもそも売り上げが落ち込んで、窮境に陥っている企業が大半であり、急に売上高がV字回復する事例はほとんどないのが実情だ。経営資源が逼迫しているときに、多少新規事業や新規顧客に資源を投入しても、体力のある競合に簡単に勝てるはずはない。事業再生の王道は、売上に依存するのではなく、「コスト削減」を軸に計画を立てることだ。

まずはコストを「見える化」し、会社が直面する課題や窮境の原因を明らかにする。その上で、具体的な施策や数値効果を検討し、優先順位付けを行う。より事態が厳しい場合には、資金繰りや施策効果が発現するタイミングなどを踏まえて、生き残りのための優先順位付けを行うことが肝要だ。コスト削減を中心とした施策を策定、実行し、まずは企業・事業が存続できる体制を構築する。攻めの施策の実行は、あくまで「生き残り」を果たした後に進めるべきである。

IGPIでは、これまでも中国や日本、さらにはアジアの様々な地域において、多くの企業・事業の再生や構造改革に携わってきた。計画の策定だけではなく、ハンズオン形式で計画の実行をサポートするのが特長だ。IGPIがサポートできる領域があれば、ぜひお気軽にご相談をいただきたい。

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